監査人に不正を見つける義務は無い【監基報240より】

監査人に不正を見つける義務は無い

粉飾決算など、会計の不正が起こると

監査法人は何をしていたんだ!

と言われます。

しかし、監査人に不正を発見する義務はありません。
監査基準委員会報告書240 財務諸表監査における不正では、

《(3) 監査人の責任》
5.監査人は、不正によるか誤謬によるかを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないことについて合理的な保証を得る責任がある。・・・

6.・・・監査人が不正を発見できるかどうかは、不正の巧妙さや改ざんの頻度と程度、改ざんされた個々の金額の重要性、共謀の程度、関与した者の組織上の地位などにより影響を受ける。・・・

8.監査人は、合理的な保証を得るために、経営者が内部統制を無効化するリスクを考慮するとともに、誤謬を発見するために有効な監査手続が不正を発見するためには有効でない可能性があるということを認識し、監査の過程を通じて職業的懐疑心を保持する責任がある。・・・

  • うまく隠された不正は解らない。
  • 疑いの目で監査する責任がある。
    ⇒疑っても解らなかったら仕方ない。隠した会社が悪い。

そういう基準になっています。

 

監査人への要求事項

先程の基準に、こう書かれています。

《1.本報告書の範囲》
1.本報告書は、財務諸表の監査における不正に関する実務上の指針を提供するものである。・・・

《2.本報告書の目的》
9.・・・
(1) 不正による重要な虚偽表示リスクを識別評価すること。
(2) 評価された不正による重要な虚偽表示リスクについて、適切な対応を立案し実施すること・・・
(3) 監査中に識別された不正又は不正の疑いに適切に対応すること。

  • 監査人は(解る範囲で)不正が発生しそうな所を見つけよう。
  • 不正が発生しそうな所(できる範囲で)調べよう。
  • 不正を見つけたら、ちゃんと対応しよう。

以下では、具体的な監査人に要求されることを書いていきます。

 

要求事項1.職業的専門家としての懐疑心

ここは当たり前のことが書いています。

11.監査人は、経営者、取締役等及び監査役等の信頼性及び誠実性に関する監査人の過去の経験にかかわらず、不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に常に留意し、・・・

12.・・・ある記録や証憑書類が真正ではないと疑われる場合、又は文言が後から変更されているが監査人に開示されていないと疑われる場合には、さらに調査しなければならない。

13.監査人は、経営者、取締役等及び監査役等への質問に対する回答が矛盾していると判断した場合には、これを調査しなければならない。 

 

要求事項2.監査チーム内の討議

ここも当たり前のことが書いています。

14.・・・討議では、・・・不正による重要な虚偽表示がどこにどのように行われる可能性があるのかについて、特に重点を置かなければならない。
監査チームメンバーは、経営者、取締役等及び監査役等が信頼でき誠実であるという考えを持たずに、討議を行わなければならない。

 

要求事項3.リスク評価手続とこれに関連する活動

まず「会社の色んな人から話を聞きなさい」と書いてます。

《(1) 経営者及びその他の企業構成員》
16.監査人は、以下の事項について経営者に質問しなければならない
(1) 財務諸表に不正による重要な虚偽表示が行われるリスクに関する経営者の評価
(2) 経営者が不正リスクの識別と対応について構築した一連の管理プロセス
・・・
(4) 経営者の企業経営に対する考え方倫理的な行動についての見解を従業員に伝達している場合にはその内容

17.監査人は、経営者、及び必要な場合にはその他の企業構成員に、その企業に影響を及ぼす不正、不正の疑い又は不正の申立てを把握しているかどうかを質問しなければならない
18.監査人は、内部監査機能を有する企業については、内部監査担当者が企業に影響を及ぼす不正、不正の疑いや不正の申立てを把握しているかどうかを判断するため、又は不正リスクに関する内部監査担当者の見解を得るため、内部監査担当者に質問を行わなければならない

経営者、内部監査、その他の企業構成員(経理・法務など)。。。たくさんいます。

この質問が、メールで良いのか、電話で良いのか、直接会って話すべきなのか。。。
デリケートな内容なので、とても難しいところです。

また、経営者を監視する人にも質問します。

《(2) 取締役会及び監査役等》
19.・・・経営者が構築した一連の管理プロセスに対する監視、及び不正リスクを低減するために経営者が構築した内部統制に対する監視を、取締役会及び監査役等がどのように実施しているかを理解しなければならない
20.監査人は、監査役等にその企業に影響を及ぼす不正、不正の疑い又は不正の申立てを把握しているかどうかを質問しなければならない。これらの質問は、経営者の回答を補強するためにも行われる。 

あとは、普通のことが書いています。

《(3) 識別した通例でない又は予期せぬ関係》
21.・・・分析的手続の実施により識別した通例でない又は予期せぬ関係が、不正による重要な虚偽表示リスクを示す可能性があるかどうかを評価しなければならない。 

《(4) その他の情報》
22.監査人は、自ら入手したその他の情報が不正による重要な虚偽表示リスクを示しているかどうかを考慮しなければならない。

《(5) 不正リスク要因の検討》
23.監査人は、実施したその他のリスク評価手続とこれに関連する活動により入手した情報が、不正リスク要因の存在を示しているかどうかを検討しなければならない。・・・

 

要求事項4.不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価

売上を大きく見せる不正が多かったので、「収益(主に売上)は注意」と言っています。

25.・・・収益認識には不正リスクがあるという推定に基づき、どのような種類の収益、取引形態又はアサーションに関連して不正リスクが発生するかを判断しなければならない。

会社のビジネスをちゃんと理解して、

  • このは不正するかも。
  • この商品がやりやすい。
  • このお客さんが危ない。

と考えます。監査人の腕の見せ所です。

26.監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクであると評価したリスクを、特別な検討を必要とするリスクとして取り扱わなければならない。 

危ない所が見つかったら、特別な対応をします。

 

要求事項5.評価した不正による重要な虚偽表示リスクへの対応

ワンマン経営だったり、管理がボロボロだったり、全体的に危ないと思ったら、全般的な対応をします。

《(1) 全般的な対応》
28.・・・
(1) 重要な役割を与えられる監査チームメンバーの知識、技能及び能力、並びに評価した財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクを考慮した上での監査チームメンバーの配置と指導監督
(2) 企業が採用している会計方針の選択と適用、特に主観的な測定複雑な取引に関係する会計方針について、経営者による利益調整に起因する不正な財務報告の可能性を示唆しているかどうかの評価
(3) 実施する監査手続の種類、時期及び範囲の選択に当たって、企業が想定しない要素の組込み

優秀な監査チームを作って、会社に不正を隠されないようにしよう。ということです。

部分的に危ない時は、部分的に力を入れます。

《(2) 評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手続》
29.・・・不正リスクを識別していない場合に比べ、より適合性が高く、より証明力が強く、又はより多くの監査証拠を入手しなければならない

また、経営者が変なことをしていないか?を確かめます。

《(3) 経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続》
31.・・・以下の監査手続を立案し実施しなければならない。
(1) 総勘定元帳に記録された仕訳入力や総勘定元帳から財務諸表を作成する過程における修正についての適切性を検証・・・
(2) 経営者の偏向が会計上の見積りに存在するかどうかを検討・・・
(3) 企業の通常の取引過程から外れた重要な取引、又は・・・通例でないと判断されるその他の重要な取引について、取引の事業上の合理性(又はその欠如)が、不正な財務報告を行うため又は資産の流用を隠蔽するために行われた可能性を示唆するものであるかどうかを評価すること。

経営者が変なことをしていたら、それが不正かどうか確かめよう。ということです。

 

要求事項6.監査証拠の評価

ここは「何か見つけたら、ちゃんと対応しよう」と書いてます。

 

要求事項7.監査契約の継続の検討

ここは「この会社ヤバいと思ったら、監査できるかどうか考えよう」と書いてます。

 

要求事項8.経営者確認書

経営者に文章で

  • 私は、不正を見つけるため努力しました。
  • 不正に関連する情報は全て監査人に提供しました。

と宣言してもらいます。

 

要求事項9.経営者及び監査役等とのコミュニケーション
要求事項10.規制当局等への報告

監査人が不正っぽいことを見つけたら、経営者や監査役に伝えます。
犯罪を見つけたら、警察に言います。

 

要求事項11.監査調書

監査人が今までやってきたこと、文章に残します。

 

どういう不正が起こるか考えるのは面白い

これは個人的な意見ですが、

  • 会社の人にヒアリングする。
  • 会社のビジネスを理解する
  • 似たような会社の不正事例を調べる
  • 監査チームで議論する
  • 考えたことを文章に書いていく

すごく面白い仕事だと思います。
不正を見つけられなくても、ちゃんとやっていれば大丈夫ですので。

  • 会社(ビジネス)が好き。
  • 人と話すのが好き。
  • 文章を書くのが好き。

という人には、監査は向いていると思います。

 

以上、最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m

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